お手本のない道を歩き続けて
~福井佼成幼稚園のインクルーシブ保育実現までの道のり~
2026.10.15
アネビー社とのお付き合いは、園の創立50周年記念事業にさかのぼります。記念事業として園庭の大改修に取り組むこととなり、当時の園長がアネビー社の遊具に強い関心を持っていたこともあって、導入に至りました。アネビー社の、遊具に対する愛のある姿勢が伝わる関わり合いはその後も続き、「佼成ふたば(後述する園隣接の発達支援事業所)」の新設にあたっては、建物の設計段階から、からだを動かして遊ぶ療育の部屋の遊具を導入することを決めました。
当園は10年ほど前からインクルーシブ保育に転換を図り、現在は、受給者証の交付や診断を受けているお子さんが園児全体の1割程度在園しています。インクルーシブ保育への転換に困難さが伴うことは、長い保育者生活の中でわかっていましたが、共に生きていくのは生物の一種として当たり前だという思いが、いつも胸の中にありました。園の方針を示せる立場になってから、大きく転換を図り、やっと「自分らしく共に育つ」という理念にたどり着きました。とはいえ、まだまだ道半ばであり、これからもずっとそうかもしれません。教育・保育の道にはゴールはなく、変化し続けることこそが在り方だと思っています。
さて、インクルーシブ保育の始まりは、「気がかりさ」のある子どもを見出したことでした。例えば、次のような姿です。周りの雰囲気を感じ取れずしゃべり続ける。じっとしていることが苦手で動き回る。自分の思うようにならないと癇癪を起こし、いったん起こすと暴れたり、大声で泣いたり、暴言を吐いたりする。言葉だけでは通じにくい。物事の切り替えが苦手で、予定変更などに対応しにくい。あるいは、一切しゃべらない、動かない。保育者にとってはとても困った状態ですが、何よりも、この状態は子ども自身の困り感から生じているのだという理解が必要になります。理解にも、保育者間での温度差や深さの違いがあり、すり合わせには今も時間がかかっています。でも、やらなければ何も動きません。思っているだけでは具現化できないのです。
そのような日々の中で、園での保育の限界を感じ始めました。園は療育の場ではなく、集団の場であり、子ども同士の育ち合いの場だと考えるようになったのです。だからといって、支援をしないのではありません。基礎的な環境整備を進めて、さらには、いわゆる「合理的配慮」の考え方を園全体に広げました。2階の多目的ホールの一角には「フラワー」という支援のための部屋を設け、アネビーの遊具を配した場をつくることで、個々が自分の好きな遊びを見つけられる環境づくりや、簡単なルールの習得、情緒の安定を図る、園内の拠点として機能させています。また保育室では視覚支援を取り入れ、一日のスケジュールを示すなど、わかりやすい生活の流れを保障できるよう心がけました。安心して過ごせる日々は、保育者や友だちへの信頼感を深めていきます。集団の中にいることの心地よさは、心の基礎を育てると確信しました。しかし、個人のスキルを伸ばす場はどこなのか。私の頭の中に思い浮かんだのは、児童発達支援事業所でした。
そこで一年間の準備期間を経て、令和6年4月に「佼成ふたば」を園舎隣接地に開設しました。「佼成ふたば」には療育室のほか、体幹を鍛えるアネビーの療育遊具を配置した部屋を設け「ふたばのもり」と名づけました。この部屋は子どもたちに大人気です。遊具の構成がとても自然で、動きやすさがあり、部屋の大きさといい、遊具の並び方といい、中をぐるぐると回ってからだを動かして遊べるようになっています。そのため、10分、15分という時間が、その倍にも感じられるほど濃密に楽しめ、子どもたちは大変満足して遊びを終えることができます。療育のコマとコマの間に、思いきり発散できる時間にもなっています。
「佼成ふたば」の新設では、新たな仕組みも園内に組み込みました。福井は戦後の繊維工業の隆盛を受けて女性が働く土地柄であり、現在もそれは引き継がれています。共働き家庭が多く、子どもに療育が必要でも、平日に保護者が連れて行くのは難しいという状況があります。そこで、園児が保護者を介さずに療育へ通えるようにしました。塾のように週一回程度「佼成ふたば」に通い、療育が終わるとまた園に戻ります。送迎は「佼成ふたば」の職員が行うため、保護者の負担感はありませんし、子どもも楽しんで通っています。園内の子どもたちは「お勉強に行く」というイメージで受け取っているので、「いってらっしゃい」「いってきます」の声が自然に飛び交います。小さい時から共に育った子どもたちには特別なことではなく、社会性を学ぶ場として、ごく自然に受け止められています。こうした取り組みが続く中で、「園」と「佼成ふたば」の職員とが、情報の共有や意見交換の場をどのように持つか、という新たな課題も見えてきました。この課題にも、一つずつ丁寧に向き合っていきたいと思っています。
お手本のない道をあえて進み、思いを形にして動かしてきた十数年でした。アネビー社の遊具に支えられながら、子どもたちがからだを動かし、満足して笑顔で遊びを終えていく、その姿を励みに、これからも歩み続けたいと思っています。
【執筆】
大栁世津子
おおやなぎせつこ
認定こども園福井佼成幼稚園 園長
https://www.fukuikosei.jp/about










