【新五感と遊び②】地球と仲良くなるためのバランス覚
2026.01.28
「感覚」という言葉には2つの意味がある
日本語の「感覚」も、英語の「sense」もそうですが、2種類の意味があって混同されがちなので整理しておきます。
- 目・耳・鼻・舌・皮膚などの感覚器がとらえた、情報のことです。視覚、聴覚、触覚などという場合はこちらの感覚です。
- 物事のとらえ方の違いのことで、ビジネスセンス、芸術的感覚、ファッションセンスなどがこちらにあたります。
このコラム、特に新五感をテーマにしているときには、「感覚」という言葉を①として捉えています。
つまり、目・耳・鼻・舌・皮膚など(あくまで「など」です、口述しますが他にも重要な器官があります)が感じて、電気などの信号に変換されて脳に送られる情報のことを「感覚」としています。
芸術的感覚、ファッションセンスなどは、脳がある程度完成した後の脳で、「その業界の情報を感じ/理解する力」であり、「発信される個性ある成果」のことですので、①とは大きく違うと考えられます。
まずは、このコラムでは、目・耳・鼻・舌・皮膚などのセンサーが捉える情報のこととしてお読みいただければと思います。
地球と仲良くなる感覚「バランス覚」
さて、新五感の5つの感覚から、まずバランス覚、正確には「前庭覚」について紹介します。
文字通りからだの傾き(バランス)を感じる感覚で、感覚器は耳の奥の三半規管などです。
と、書くと、正確ですが、無味乾燥に思われてしましますので、以降で重要さを書いていきたいと思います。
まず、大前提にしてほしいのが、人間は地球に生まれ地球で育つ存在だということです。
重力が地球の1/6の「月」で育つわけでもないですし、2.5倍ある「木星」で育つわけでもありません。人間は重力が1Gの地球に生まれ地球で育つ存在なのです。だいぶ大きな話になってしまいましたが、つまり「人間は地球の重力1Gに適応するように育っていく」ということです。
なので、地球、その1Gの重力を感じとり、重力の方向を感じ取ることで「加速している」「回転している」「往復している」などの動き、言い換えると地球上での自分の位置を感じ取る感覚が「バランス覚」といえます。
生れる前の赤ちゃんはお母さんのおなかの中で過ごします。もちろん重力は感じていますが、母体がその重力に対応してくれるので、基本的には何もしないで過ごしています。
しかし、誕生と同時に、環境が一変します。
誕生:地球の1Gの重力に自分自身で対応しなくてはならなくなる
手足をバタバタさせる:重力に逆らって手足を動かす
手足のコントロール:重力のなかで調整しながら手足をちょうどよく動かす
寝返り:重力にさからって体を回転させる
お座り:重力に対して垂直を保つ
ハイハイ:重力の中での移動と自分自身の意思での速度変化
つかまり立ち:より高度な姿勢保持
歩行の開始:重力下でバランスを取りながら体を使っていく
もちろん、最初からうまくいくわけではありません。

赤ちゃんは手足を無意味にバタバタ動かしているように見えますが、これは、重力下で手足がどのように動くのかを何万回も試行錯誤しているのです。
バランス覚まとめ
- 専門用語では=前庭覚
- 感覚器=耳の奥の三半規管
- 感じるもの=傾き、回転、速度、揺れなど
- ほかの役割=脳をシャキッとさせる(覚醒機能)
バランス覚は遊びが育む
前回のコラム「【新五感と遊び①】感覚と遊び」でも書きましたが、子どもは、どの感覚だったとしても、新しい感覚を感じた時に、本能として喜びを覚えるようになっています。
バランス覚にももちろん言えます。
生まれて間もなく手足をいろいろと動かしているのもそうですし、1~2歳くらいの子が、ただ、くるくる回っているだけなのに楽しんでいるのもそうです。
大人にやってもらう肩車もそうですし、高い高いもバランス覚に働きかける遊びなので喜ぶ理由でもあります。
もちろん遊具にもバランス覚に働きかけるものがたくさんあります。

【バランス覚に大きく働きかける遊具と働きかける内容】
- すべり台=傾き変化、速度変化
- ブランコ=傾き変化、速度変化、移動方向の変化
- シーソー=縦方向の速度変化、傾き変化
- 回転遊具=回転
- 平均台/一本橋=不安定な場所でバランスをとる
- 築山/でこぼこ=傾き変化
感じ方の違いが大変さを生むことがある(バランス覚)
神経発達症(いわゆる発達障がい)の人は、特性として感覚の感じ方が大きな違いがみられることがあります。
光や音にびん感なために特定の場所に行くことができない、痛み(触覚)がどん感なためにけがをしても気が付かないなど、多くの症状があります。
この感じ方の違いは、視覚/聴覚/味覚/嗅覚だけに起こるものではありません。このバランス覚やほかの感覚にもびん感/どん感があります。
【バランス覚のびん感】
地球の重力を感じすぎる、傾き変化を感じすぎる、速度変化を感じすぎる・・・ということなので、次のような特性に現れてきます。
- 小さな段差が怖い
- 少しの隙間をまたぐのが怖い
- エスカレーターが苦手
- 遊具が苦手で遊ぶことができない
【バランス覚のどん感】
地球の重力を感じにくい、傾き変化が感じにくい、速度変化が感じにくい・・・ということなので、次のような特性に現れてきます。
- くるくる回り続けた、走り続けたりする
- ブランコやすべり台を何度もやりつづける
- 危険を考えずに高いところに登る
上記のそれぞれの行動は、「周囲から見た時の気になる行動」ですが、実態は「本人の感覚特性による困りごと」です。
つまり、重力の感じ方が違うために、その感覚から逃げようとする行動(感覚回避)であり、逆に感覚を求めてしてしまう行動(感覚探究)と考えられます。
自閉症の作家東田直樹さんが高校生のときに書いた書籍『自閉症の僕が跳びはねる理由2』の中で感覚探究についてわかりやすく表現で書いてくれました。
自分の体が実感できるので、僕は走ることが大好きだ。
体が実感できるというのは、重力を感じることができるということではないだろうか。
僕は、いつも人である自分の体が、自分のものだと感じられない。手足がどこにあるのか、どうやって動かしているのかわかっていない。まるで、見えない羽がついているように、いつもゆらゆらしてしまう。走っているときには、風をうけて前に向かっているせいか、自分の体が重く感じて、ここに自分の体があることがよくわかる。
『自閉症の僕が跳びはねる理由2』 出版)株式会社KADOKAWA 著)東田直樹

このバランス覚の感じ方の違いによる困りごとは、単にエスカレーターに乗れないとかブランコを交代できないとかということなく、傾きや地面からの垂直が分からないので、将来の姿勢に関することだったり、空間把握や微細運動などにも影響を及ぼします。
そういった影響がさらにその後の発達段階である社会性やコミュニケーション能力にもかかわるのです。
もしこういう子がいたら、まず“困っているのは本人”と理解するのが周囲の大人の役割です。
発達障がいを含めて障がいの有無にかかわらず、乳幼児期の必要な時期に、バランス覚などの新五感に働きかける遊びをすることはとても重要なことです。
そのための環境設定として遊具はとても効果的です。なぜなら、遊具はバランス覚などを感じやすくするために創られているからです。
新五感のほかの感覚については、また次回以降で解説していきます。










